
相続手続きにおいて、「どの法律に従うべきか」は最も基本的なスタート地点です。一般的には「現在の日本の民法」が適用されますが、実はすべての相続にそのまま適用できるわけではありません。亡くなられた方の国籍(場所)や、相続が発生した時期(時間)によっては、適用される法律が異なり、「誰が相続人か」「取り分はいくらか」という根本的なルールが変わることがあります。
この記事では、相続における「法の適用ルール(時間と場所の考え方)」について解説します。一見するとマニアックな論点に見えるかもしれませんが、数次相続(過去の未解決の相続)や国際相続に関わる方にとっては、手続きの前提を覆すほど重要な知識となります。相続という制度の奥深さを、ぜひ感じてみてください。
- 相続は、人の死亡によって自動的に開始し、特別な手続きをしなくても権利や義務が引き継がれる。
- 相続の対象には、土地・建物・現金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれる。
- 死亡した時期の前後が分からない場合、同時に死亡したと推定される。
- 相続が始まった時期によって、適用される法律(旧民法・応急措置法・改正前民法など)が異なる。
- 外国人や海外財産が関係する相続では、どの国の法律を適用するか(通則法)の判断が重要になる。
⏳相続の基本ルール|人が死亡すると相続が開始する(今の民法)
相続は、人の死亡によって開始します(民法882条)。特別な申請や手続きをしなくても、死亡の時点でその人の権利や義務は相続人に引き継がれます。
相続人が複数いる場合、相続財産は一時的に相続人全員の共有状態になります(民法898条)。
また、相続が始まった後に行う手続きの中には、期限が定められているものもあり、死亡日(相続開始日)は、各種手続きの期限の起算日となります。

💰相続とは、亡くなった人のすべての財産や権利・義務を引き継ぐこと(今の民法)
「相続」とは、人が亡くなったときに、その人が持っていたすべての財産や権利・義務を、一定の親族が引き継ぐ仕組みです。亡くなった人を「被相続人(ひそうぞくにん)」、財産などを受け継ぐ人を「相続人」といいます。



「すべての財産や権利・義務」とは、土地や建物、現金などのプラスの財産はもちろん、借金などのマイナスの財産も含まれます。相続人は、プラスの財産のみ、または特定の財産のみを選んで受け継ぐことはできません。

相続人となる「一定の親族」とは、誰が相続人になるかは民法により定められており、家族構成によって異なります。詳しくは「法定相続人とは:民法で規定する相続人の順位と範囲」をお読みください。
📅相続開始時期による適用法令の違い(昔の法律)
相続が発生したまま、遺産分割が行われずに長い年月が経ってしまうことがあります。たとえば、祖父母の時代の相続で、不動産の名義をそのままにしていたようなケースです。こうした不動産は名義が「宙ぶらりん」のままになり、何十年も後に祖父母の子や孫などの新たな相続が発生すると、「誰が相続人で、相続分はどれだけなのか」を確認する必要が出てきます。
ここで注意が必要なのは、相続が始まった時期によって、適用される法律が異なるという点です。相続は、発生した当時の法律に基づいて処理されるため、昔の相続では、相続人の範囲や相続分の計算方法が、現在とは異なる場合があります。
したがって、昔の相続が関係する不動産の遺産分割を行う際には、「その相続がいつ始まったのか」を確認し、その時点での法律(旧民法・応急措置法・改正前民法など)を踏めて整理することが大切です。以下の表では、相続開始の時期によって、どの法令が適用されるのかをまとめています。
遺産分割(いさんぶんかつ)
被相続人が残した財産を、相続人が分け合う手続きです。
| 適用法令 | 現行民法 | 現行民法 (改正前) | 応急措置法 | 旧民法 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 家督相続 ※1 | 遺産相続 ※1 | |||||
| 死亡した時期 | 昭和56年1月1日~ 現在 | 昭和23年1月1日~ 昭和55年12月31日 | 昭和22年5月3日~ 昭和22年12月31日 | 明治31年7月16日~ 昭和22年5月2日 | ||
| 配偶者 | 常に相続人となる | - | ||||
| 相 続 順 位 | 第一順位 | 子1/2 | 子2/3 ※3 | 直系卑属2/3 | 法定 家督相続人 | 直系卑属 |
| 第二順位 | 直系尊属1/3 | 直系尊属1/2 | 直系尊属1/2 | 指定 家督相続人 | 配偶者 | |
| 第三順位 | 兄弟姉妹1/4 | 兄弟姉妹1/3 ※4 | 兄弟姉妹1/3 ※2 | 第一種選定 家督相続人 | 直系尊属 | |
| それ以降 | ー | ー | ー | 直系尊属 | 戸主 | |
| 第二種選定 家督相続人 | ー | |||||
| 遺留分 | 直系尊属のみ1/3 その他1/2 兄弟姉妹なし | 直系卑属1/2 子と配偶者1/2 その他1/3 兄弟姉妹なし | 直系卑属1/2 直系卑属と配偶者1/2 その他1/3 兄弟姉妹なし | 法定家督相続人1/2 その他1/3 | 直系卑属1/2 配偶者・直系尊属1/3 | |
昭和22年以前(日本国憲法施行前)は「家督相続(かとくそうぞく)」と「遺産相続」という2つの相続の仕組みがありました。
家督相続とは、「家」を継ぐ人が一人で、戸主(こしゅ=今でいう家の代表)の地位と財産をすべて引き継ぐ制度です。戸主が亡くなったときだけでなく、隠居などの場合にも始まりました。
この家督相続では、戸主の財産や権利・義務を一人の相続人がすべて引き継ぎ、ほかの家族は相続できませんでした。また、家督相続を放棄することも認められていませんでした。
一方、遺産相続とは、戸主以外の人(家族など)が亡くなったときに、その財産を分ける仕組みです。この場合は、同じ順位の相続人がいれば、みんなで財産を分け合う「共同相続」になりました。

※2 応急措置法(昭和22年5月3日~12月31日)の特徴
この時期は、新しい民法が施行されるまでの「つなぎの期間」でした。このときは、兄弟姉妹の子ども(=おい・めい)が代わりに相続すること(代襲相続)は認められていませんでした。また、異母・異父兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)も、全血の兄弟姉妹と同じ相続分とされていました。
※3 昭和37年(1962年)の改正
民法の条文上、「直系卑属」という表現が「子」に改められました。ただし同時に、「孫以下の世代も代襲相続人になれる」ことが明確にされたため、制度の実質的な内容は変わりませんでした。
※4 改正前民法(昭和23年~昭和55年)
この時期の民法では、兄弟姉妹の子ども(おい・めい)だけでなく、さらに下の世代(孫世代)まで代襲相続が認められていました。現在は、兄弟姉妹の子までしか代襲相続できない仕組みに改められています。
🌐外国人や外国の財産が関わる場合の相続手続き(どこの法律)
相続の中には、被相続人(亡くなった方)や相続人(財産を引き継ぐ人)の中に外国人がいたり、相続財産の中に海外の財産が含まれているケースもあります。
このような場合、どこの国の法律に従って相続を進めるのか――つまり「どの国の法律を適用するか(通則法)」を判断する必要があります。
適用される法律(通則法)の基本
日本で相続を行う際に外国が関係する場合、どの国の法律を使うかは「法の適用に関する通則法」という日本の法律で定められています。原則として、被相続人の国籍のある国の法律が適用されます(通則法第36条)。
つまり、
・日本人が亡くなった場合 → 日本の法律が適用されます。
・外国人が亡くなった場合 → その人の国籍の国の法律が適用されます。

「反致(はんち)」という仕組み
少し専門的な言葉ですが、「反致(はんち)」とは、外国の法律が「日本の法律を使うべき」と定めている場合に、日本の法律に戻して相続を行うという仕組みのことです。
たとえば、被相続人がドイツ人で日本に住んでいた場合、日本の法律では「ドイツ法を使う」とされますが、ドイツ法では「相続は亡くなった人の居住地の法律による」と定められているため、結果的に日本法が使われることになります。
外国が関わる相続では、「どこの国の法律を使うか」が最初の重要なポイントです。さらに、海外にある財産の扱いや遺言の効力などは、国ごとに手続きや制度が大きく異なります。
さらに詳しくは、
👉 外国人や外国の財産が関わる場合の相続手続き
をご覧ください。
📝まとめ:正しい「適用法律」の判断が手続きの第一歩
相続手続きは、単に戸籍を集めて書類を作成するだけの事務作業だと思われがちです。しかし、実際にはその手前にある「どの法律(ルールブック)に従ってゲームを進めるか」を特定することこそが、最も重要な第一歩となります。
本記事で解説した通り、被相続人が亡くなった「時期(時間)」や、国籍などの「場所」によって、適用される法律は異なります。
時間のルール: 亡くなった時点の法律が適用される(旧民法・応急措置法など)
場所のルール: 被相続人の本国法が適用される(通則法・反致など)
もし、適用する法律の判断を誤ってしまうと、相続人の範囲や法定相続分を根本から間違えることになります。
このような相続は、ご自身だけで判断して進めてしまう前に、まずは専門家に相談することをお勧めします。
このページのポイント
- 相続は、人の死亡によって自動的に開始し、特別な手続きをしなくても権利や義務が引き継がれる。
- 相続の対象には、土地・建物・現金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれる。
- 死亡した時期の前後が分からない場合、同時に死亡したと推定される。
- 相続が始まった時期によって、適用される法律(旧民法・応急措置法・改正前民法など)が異なる。
- 外国人や海外財産が関係する相続では、どの国の法律を適用するか(通則法)の判断が重要になる。
新井 秀之
行政書士/認定経営革新等支援機関/東京出入国在留管理局申請取次者/神奈川県行政書士会横浜中央支部相談員/コスモス成年後見サポートセンター相談委員

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- 神奈川県横浜市
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- 対応業務:
- 相続/遺言/遺言執行/成年後見/終活
1965年に横浜市神奈川区で生まれ、東芝、リクルートでの企業勤務を経て、行政書士として独立いたしました。以来、「人生の最終章を支える」という使命を胸に、相続、遺言、成年後見、そして死後の諸手続きといった業務を中心に、数多くのご相談と向き合ってまいりました。...続きを読む
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な手続きや判断については、必ず専門家にご相談ください。法改正や自治体の運用により情報が異なる場合がありますのでご注意ください。


・父(妻はいない)



「人が亡くなったとき」とは、自然死亡のほか,法律上死亡とみなされる「失踪宣告」(民法30条,31条)や「認定死亡」(戸籍法89条)が含まれます。