
相続権を失う場面には「相続欠格」と「相続廃除」があります。この記事では、両制度の違い・要件・効果、代襲相続の扱い、必要書類や証拠までを実務の視点で解説します。読み終えると、ご自身の事案での適切な初動と手続の道筋が分かります。
- 相続欠格に該当する非行をした相続人は、裁判手続を経ず、当然に相続権を失います。(相続欠格)
- 相続廃除は、虐待などの著しい非行をした推定相続人の相続権を、被相続人の意思で奪う制度です。
- 相続廃除は、被相続人の意思だけでは成立せず、家庭裁判所の審判を受ける必要があります。
- 相続廃除の意思表示は、遺言に明記するか、または生前に家庭裁判所へ廃除審判の申立てで行います。
- 相続欠格は当然失権だが、戸籍に現れないため実務上は立証資料が鍵になります。
- 相続廃除では、遺留分を有する推定相続人に限られます。兄弟姉妹の相続廃除は出来ません。
🚫相続権を失うケース
相続とは、本来、被相続人(亡くなった方)の財産や法律関係を、民法に定められた相続人が引き継ぐ制度です。しかし、相続人となる立場の者が、重大な非行を働いた場合や、被相続人との信頼関係を著しく損なうような事情がある場合には、法律上または被相続人の意思によって、その者の相続権が剥奪されることがあります。
このように相続権を失う場合は、本人の意思で行う「相続放棄」とは異なり、法的または被相続人の意思に基づいて、強制的に相続人から除外される制度です。これに該当する制度として、主に次の2つが挙げられます。
相続欠格
相続欠格とは、法律上、一定の重大な非行を行った相続人を、当然に相続人の地位から排除する制度です。裁判所による審判を経ることなく、該当する行為を行った者は、法律の規定により当然に相続権を失うことになります。欠格者は、被相続人の死後、相続人であったかのようにふるまうことはできず、その権利は一切認められません。
相続欠格に該当する主な行為(民法第891条)
・被相続人または他の相続人を故意に殺害し、または殺害しようとした者
・被相続人が作成した遺言について、詐欺や強迫によりその作成・取消・変更を妨げた者
・遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者
これらの行為は、相続に対する根本的な信頼関係を破壊するものとして、法律上極めて厳しい扱いがなされます。
欠格者の子の相続権(代襲相続との関係)
相続欠格となった本人には相続権は認められませんが、その者の子(あるいは孫など)は、代襲相続人として相続権を得ることができます。非行の効果を子や孫にまで及ぼさないための調整です。

相続廃除
相続廃除とは、被相続人の意思によって、推定相続人の相続権を奪う制度です。廃除は、被相続人に対して推定相続人が虐待・侮辱などの著しい非行をした場合に認められます。この制度は、単に仲が悪いという程度では認められず、被相続人の人格的・精神的な平穏を著しく害するような深刻な行為があった場合に限って認められます。
廃除の具体的な理由(民法第892条〜第894条)
・被相続人に対する継続的な暴力や虐待
・被相続人に対する重大な侮辱行為
・著しい不道徳行為や反社会的行為

廃除の手続きには家庭裁判所の関与が必要
相続欠格と異なり、廃除は被相続人の主張だけでは成立しません。廃除を実効性のあるものとするためには、家庭裁判所に廃除の申立てを行い、その審判を受ける必要があります。
この申立ては、被相続人が生前に行うこともできますし、遺言によって意思表示をしておくことも可能です。
📋相続欠格の実務対応
相続欠格とは、法律上、一定の重大な非行を行った相続人を、当然に相続人の地位から排除する制度です。裁判所による審判を経ることなく、該当する行為を行った者は、法律の規定により当然に相続権を失うことになります。
「当然失権」でも手続きは止まる—どこが支障になるか
戸籍一式だけでは相続欠格が分からないため、
銀行:相続手続(払戻・解約・名義変更)が保留される
法務局:登記申請で補充資料の提出を求められる
といった運用上のストップが生じます。
欠格の立証方法(実務で用いられる2ルート)
次のいずれかで欠格事由を示します。受入可否・書式は機関ごとに異なるため事前照会が安全です。
1.欠格者本人の「相続欠格証明書」+印鑑登録証明書
欠格者本人が「民法891条○号に該当する」旨を自認した証明書を作成する。(実印押印して印鑑証明書を添付する)
本人協力が得られない場合は不可なため、大抵の場合は難しい。
2.欠格事由を証する公的資料
例:欠格者の非行に関わる裁判の確定判決謄本+確定証明書など。
客観性が高く、本人が協力しない場合の主たる選択肢になります。
ポイント
金融機関では、戸籍一式・遺産分割協議書に加え、上記1または2の提出が求められるのが一般的です。
法務局では、登記原因に関わる資料として公的資料の提出を求められることがあるため、事前相談が無難です。
争い・非協力時の手当て
欠格者が自認せず、資料提出にも応じない場合は、「相続権不存在確認」等の訴えで確定判決を取得し、その謄本・確定証明書をもって各機関の手続きを進めます。
よくある誤解
誤解:「欠格は戸籍に載る」→ 載りません。別資料での立証が必要です。
誤解:「欠格証明書があれば必ず通る」→ 任意文書のため、受入可否は相手機関の運用次第です。公的資料の方が通りやすい局面が多くあります。
参考ひな形(任意提出用)
※受入は手続先機関の運用によります。事前確認のうえご利用ください。


✍️遺言による相続廃除について
遺言による相続廃除の意思表示
被相続人が亡くなる前に、家庭裁判所に廃除を申し立てる時間や機会がなかった場合でも、遺言書に「○○を廃除する」という意思表示を記載しておくことで、廃除の効力を発生させることができます。この場合、被相続人の死後、遺言執行者が家庭裁判所に対して、正式に廃除の審判を請求する必要があります。
遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ)
遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人物で、遺言によって指定されるか、家庭裁判所が選任します。
遺言による廃除の文言例
「長男○○は、私に対して長年暴力的な言動を繰り返し、私の名誉と生活の平穏を著しく害してきた。よって、民法892条に基づき、推定相続人○○を廃除する。」
このような記載がある遺言書を根拠に、遺言執行者が家庭裁判所に審判を申し立てることで、廃除の手続きが開始されます。
遺言による廃除の撤回
被相続人は、かつて推定相続人の廃除を申し立てた、あるいは遺言で廃除の意思表示をしたとしても、その後に和解や関係の改善がなされた場合には、自由に廃除を撤回することができます。この撤回も、遺言によって行うことが認められています。
撤回の文言例
「令和〇年〇月〇日付の遺言において、長男○○を廃除する旨の意思表示をしたが、その後、関係が改善されたため、これを撤回する。」
このように記載された遺言が有効に存在する限り、廃除の意思は効力を持たず、相続人としての権利は回復されます。相続権の剥奪は、相続制度における重大な制限であり、感情的な判断や手続きの不備によってトラブルが生じやすい領域でもあります。遺言によっても実現可能な制度ではありますが、裁判所の審査が必ず介在するため、実務的には丁寧な文言と証拠が求められます。
- 相続欠格に該当する非行をした相続人は、裁判手続を経ず、当然に相続権を失います。(相続欠格)
- 相続廃除は、虐待などの著しい非行をした推定相続人の相続権を、被相続人の意思で奪う制度です。
- 相続廃除は、被相続人の意思だけでは成立せず、家庭裁判所の審判を受ける必要があります。
- 相続廃除の意思表示は、遺言に明記するか、または生前に家庭裁判所へ廃除審判の申立てで行います。
- 相続欠格は当然失権だが、戸籍に現れないため実務上は立証資料が鍵になります。
- 相続廃除では、遺留分を有する推定相続人に限られます。兄弟姉妹の相続廃除は出来ません。
新井 秀之
行政書士/認定経営革新等支援機関/東京出入国在留管理局申請取次者/神奈川県行政書士会横浜中央支部相談員/コスモス成年後見サポートセンター相談委員

- 対応エリア:
- 神奈川県横浜市
- アクセス:
- 相鉄線 天王町駅 北口より徒歩10分
- 対応業務:
- 相続/遺言/遺言執行/成年後見/終活
1965年に横浜市神奈川区で生まれ、東芝、リクルートでの企業勤務を経て、行政書士として独立いたしました。以来、「人生の最終章を支える」という使命を胸に、相続、遺言、成年後見、そして死後の諸手続きといった業務を中心に、数多くのご相談と向き合ってまいりました。...続きを読む
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な手続きや判断については、必ず専門家にご相談ください。法改正や自治体の運用により情報が異なる場合がありますのでご注意ください。



























・相続欠格は当然失権だが、戸籍に現れないため実務上は立証資料が鍵になります。
・本人自認文書(証明書)または公的資料(確定判決等)のいずれかで対応します。
・本人自認文書(証明書)が簡単だが、大抵の場合本人の協力は得られない。
・争い・非協力が見込まれる場合は、確認訴訟での確定判決取得を視野に入れる必要があります。