
相続は、配偶者や子どもなどの相続人が遺産を受け継ぐのが通常です。ところが、身寄りがない方や、相続人となるべき親族がすでに亡くなっている場合、または相続人全員が相続放棄をした場合には、相続人がいないケースが発生します。そのとき、遺産はどのように扱われるのでしょうか。実は、一般の相続とは異なる特別な手続きが定められており、遺産を管理する「相続財産清算人」という制度も用意されています。本記事では、相続人がいない場合の手続の流れや相続財産清算人の役割、さらに相続人が後から見つかった場合の対応についても解説します。読んでいただければ、相続人不在の全体像が理解できるようになります。
- 相続人がいない場合、被相続人の財産は法人となり、相続財産清算人によって管理されます。
- 相続財産清算人は、遺産の調査と管理、相続人の捜索などの業務を行い、残余財産は国家に帰属させます。
- 相続人不在が確定すると、特別縁故者の申立てにより家庭裁判所が財産分与を命じる場合があります。
- 公告期間中に相続人が現れて承認すれば、相続財産法人は成立せず、相続人が遺産を直接承継することになります。
📋相続人がいない場合の法的手続の流れ
相続財産法人の成立(当然成立)
被相続人に法定相続人が誰もいない場合や、すべての相続人が相続放棄をした場合、または遺言によって財産の遺贈がされていない場合には、遺産には承継先がなくなります。このようなとき、法律上、特別な手続きを経ることなく「法人」として扱われることになります。
この仕組みを「相続財産法人」といいます。
法定相続人(ほうていそうぞくにん)
法律により相続できる権利が認められている人を指します。被相続人の配偶者に加え、子、直系尊属、兄弟姉妹が相続順位に従って相続人となります。
相続財産法人に含まれるもの
相続財産法人は、相続人がいない場合に被相続人の財産全体をひとまとめにして、法人格を与えたものです。対象となるのは、次のようにプラスの財産とマイナスの財産の双方です。
積極財産(プラスの財産)
・不動産(土地・建物)
・預貯金
・株式や投資信託などの有価証券
・自動車や貴金属などの動産
・各種権利(例:借地権、敷金返還請求権など)
消極財産(マイナスの財産=債務)
・金融機関からの借入金
・未払いの税金
・医療費や介護費用の未払い分
・損害賠償債務 など
つまり、プラスの財産もマイナスの債務も、すべてまとめて相続財産法人に含まれます。
実務上のポイント
原則として財産も債務も一括して相続財産法人に含まれますが、実務では次のような運用上の違いがあります。
財産や債務がほとんどない場合
清算人選任の申立てが行われず、手続が進まないままになるケースがあります。
不動産や多額の債務がある場合
家庭裁判所で清算人が選任され、財産の調査・清算が進められます。
なお、清算人には報酬が支払われますが、その原資は被相続人の遺産から充てられます。したがって、財産が十分にある場合は手続が積極的に進められる一方、財産が乏しい場合には申立て自体が見送られることもあります。
👤遺産は相続財産清算人が管理します
相続財産清算人には、被相続人が残した財産や債務を適切に整理し、最終的に残余財産を国庫に帰属させるまでの一連の手続きを担う責任があります。清算人の選任は、家庭裁判所によって行われ、利害関係人(債権者、受遺者、内縁の配偶者、市町村、検察官など)が申し立てを行うことができます。
受遺者(じゅいしゃ)
遺言によって遺贈を受ける人のことを指します。法定相続人でない第三者でも指定することができ、遺言の内容に従って財産を取得します。
清算人は次のような業務を行います:
- 遺産の調査と管理
- 債務の返済や遺贈の履行
- 相続人の捜索
- 特別縁故者への分与対応
- 残余財産の国庫への帰属

⏳相続財産清算人の選任後の主な手続きの流れ
- 相続財産清算人の選任と公告
- 家庭裁判所が相続財産清算人を選任すると、その旨を公告します。この公告には以下の内容が含まれます。
– 相続財産清算人が選任されたこと
– 相続人を捜すための公告(6か月以上の期間を定める)
この6か月の期間内に相続人が現れなければ、「相続人がいない」ことが確定します。 - 債権者・受遺者の届出の公告
- 相続財産清算人は、相続財産の債権者および受遺者を確認するため、2か月以上の届出期間を定めて公告を行います。この公告は、先の「相続人捜索の公告期間」内に届出期間が満了するように設定されます。
- 特別縁故者への分与申立て
- 相続人がいないことが確定した後、3か月以内に特別縁故者(生前に被相続人の療養看護等に努めた者など)からの分与申立てがあれば、家庭裁判所が審理し、財産の分与を命じることがあります。
- 遺産の換価処分
- 必要に応じて、相続財産清算人は家庭裁判所の許可を得て、不動産や株式などを売却し、金銭に換価します。
- 債権者・受遺者・特別縁故者への配当
- 法律に従い、債権者や受遺者に支払いを行い、特別縁故者への分与が命じられた場合はその分も支払います。
- 残余財産の国庫帰属
- すべての清算手続が終わった後、なお遺産が残る場合は、残余財産は国庫に帰属します。
公告(こうこく)
官公庁や裁判所などが、広く一般に対して一定の事実や手続きを知らせるために行う公的な通知のことです。新聞や官報、掲示板などを通じて行われます。
特別縁故者(とくべつえんこしゃ)
・長年同居し介護していた内縁の配偶者
・親代わりとなって世話をしていた人
・長期間看病していた友人など

※なお、手続きの途中で相続財産が尽きた場合は、そこで清算手続きは終了となります。
🔎相続人が見つかった場合はどうなる?
相続人の有無が不明な場合、家庭裁判所は相続財産清算人を選任し、相続人を捜すための公告を行います。この公告期間中に相続人が現れ、相続を承認した場合、その時点で「相続財産法人」は存在しなかったものとみなされ、相続人が財産を直接承継する形となります。
ただし、相続財産清算人がすでに行った法律行為(たとえば不動産の売却や債務の弁済など)は、相続人が現れた後も原則として有効です。また、相続人が相続を承認した時点で、清算人の代理権は消滅します。
このように、後から相続人が判明した場合でも、手続の安定性と相続人の権利保護の両立が図られるよう、法律上の取り扱いが定められています。もっとも、公告期間がすでに終了した後に相続人が見つかった場合については、民法に明確な規定が存在しないため、実務上は判例や解釈に委ねられています。
最高裁判例(昭和50年10月24日)は、相続財産が国庫に帰属するのは「家庭裁判所の審判や公告期間の満了時点」ではなく、相続財産清算人が国に残余財産を引き渡した時点であると判示しました。したがって、引き渡し完了前に相続人が現れて相続を承認すれば、国庫帰属は発生せず、相続人が財産を承継できると整理されています。逆に、清算人から国への引渡しがすでに完了していた場合には、その財産は国有となっており、相続人が直接取り戻すことはできないと思われます。
- 相続人がいない場合、被相続人の財産は法人となり、相続財産清算人によって管理されます。
- 相続財産清算人は,遺産の調査と管理、相続人の捜索などの業務を行い、残余財産は国家に帰属させます。
- 相続人不在が確定すると、特別縁故者の申立てにより家庭裁判所が財産分与を命じる場合があります。
- 公告期間中に相続人が現れて承認すれば、相続財産法人は成立せず、相続人が遺産を直接承継することになります。
新井 秀之
行政書士/認定経営革新等支援機関/東京出入国在留管理局申請取次者/神奈川県行政書士会横浜中央支部相談員/コスモス成年後見サポートセンター相談委員

- 対応エリア:
- 神奈川県横浜市
- アクセス:
- 相鉄線 天王町駅 北口より徒歩10分
- 対応業務:
- 相続/遺言/遺言執行/成年後見/終活
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な手続きや判断については、必ず専門家にご相談ください。法改正や自治体の運用により情報が異なる場合がありますのでご注意ください。




























1965年に横浜市神奈川区で生まれ、東芝、リクルートでの企業勤務を経て、行政書士として独立いたしました。以来、「人生の最終章を支える」という使命を胸に、相続、遺言、成年後見、そして死後の諸手続きといった業務を中心に、数多くのご相談と向き合ってまいりました。...続きを読む