
遺言書の有無によって、その後の相続手続きは大きく変わります。したがって、まずは遺言書があるかどうかを確認することが相続の第一歩です。
この記事では、遺言書の確認方法や保管場所の探し方、複数の遺言書がある場合の対応、無効となる遺言書の注意点を分かりやすく解説します。さらに、自筆証書遺言を発見した際の家庭裁判所の検認手続きや、自筆証書遺言書保管制度の活用についても取り上げます。遺言書の確認に迷っている方が、どのような流れで対応すべきか理解できる内容となっています。
- 📜遺言書の作り方は法律で決まっている
- 🔎遺言書が保管されている可能性のある場所
- 📑遺言書が複数ある場合はどうなる?
- ⚠️無効となる遺言書とは?正しい遺言書を作るために知っておくべきポイント
- ⚖️自筆証書遺言があった場合の手続きについて
- 🏦自筆証書遺言書保管制度とは?
- 遺言書が残されている場合、基本的にはその内容に沿って手続きを進めることになる。
- 保管場所は自宅・貸金庫・公証役場・法務局・専門家事務所などが考えられる。
- 複数の遺言書がある場合、原則すべて有効ですが、矛盾する部分については、新しい日付の遺言書が有効。
- 無効となる遺言書の典型例を知っておくことが大切です。
- 自筆証書遺言は検認が必要だが、保管制度を利用していれば検認は不要です。
📜遺言書の作り方は法律で決まっている
遺言書は、本人が亡くなった後に効力を生じるものであり、あとから本人が内容を訂正したり、真意を説明したりすることができません。そのため、遺言書の作り方は法律によって厳格に定められています。
法律で定められた形式を満たしていないものは、遺言書としての効力を持たず、単なる希望を記した手紙にすぎません。正しい形式で作成された遺言書には法律上の効力があり、相続手続きではその内容に従う必要がありますが、単なる手紙にはそのような効力はなく、相続手続きに利用することもできません。
普通方式の遺言書の種類
遺言書にはいくつかの種類がありますが、一般的に利用される「普通方式の遺言書」には次の2つがあります。
公正証書遺言
公証人が遺言者の意思を確認したうえで作成する遺言書です。原本は公証役場に保存され、正本と謄本が遺言者本人に交付されます。
公証人(こうしょうにん)
法務大臣に任命された法律の専門家で、公正証書の作成や私文書の認証など、公的証明を行う役割を担います。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者本人が全文を自筆で作成する遺言書です。原則として、遺言者の死亡後に家庭裁判所で検認の手続きを行う必要があります。
また、自筆証書遺言が封かんされている場合には、家庭裁判所の検認の場で開封することとされており、それ以前に開封してはいけません。
ただし、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用して保管されていた場合には、検認の手続きは不要となります。

🔎遺言書が保管されている可能性のある場所
遺言書を探すことが大切な理由
遺言書がないと思い込んで遺産分割協議を進めていたところ、後から遺言書が見つかることがあります。そうなると、それまでの協議が無駄になるだけでなく、遺言の内容によっては相続人同士の関係が悪化してしまうこともあります。だからこそ、まずは遺言書の有無をしっかり捜索することが大切です。
自宅に保管されているケース
もっとも多いのは、自宅に遺言書が保管されているケースです。
・書斎や机の引き出し
・本棚や金庫
・貴重品をまとめている箱や封筒
遺品整理を兼ねて丁寧に確認しましょう。
金融機関の貸金庫
遺言書は金融機関の貸金庫に保管されていることもあります。被相続人が貸金庫を利用していた場合、金融機関によって手続きは異なりますが、相続人全員の同意を得て、所定の「貸金庫開扉依頼書」や「同意書」などを提出して開けるのが一般的です。
公証役場で保管されている場合
公正証書遺言の原本は公証役場に保管され、遺言者本人には正本と謄本が交付されます。相続人等の利害関係者は、相続開始後に、日本公証人連合会の「遺言検索システム」を利用できます。全国どこの公証役場でも検索が可能で、作成された公正証書遺言の有無を確認することができます。
法務局の自筆証書遺言書保管制度
2020年から始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用している場合、遺言書は法務局で保管されています。
・まず「遺言書保管事実証明書」を請求し、保管の有無を確認します。
・保管されていることが確認できたら、「遺言書情報証明書」を取得し、遺言の内容を確認します。
この2段階の手続きにより、遺言書の捜索と内容確認が可能になります。
弁護士などの専門家に預けられている場合
被相続人が遺言書を作成する際に、弁護士などの専門家に依頼しているケースもあります。その場合、遺言書の正本や写しを専門家が預かっていることがあるため、被相続人が生前に付き合いのあった専門家に確認するのも有効です。特に、遺言執行者に指定されている場合には、その専門家が遺言書を管理している可能性があります。
遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ)
遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人物で、遺言によって指定されるか、家庭裁判所が選任します。

遺言書は、自宅・貸金庫・公証役場・法務局・専門家事務所など、さまざまな場所に保管されている可能性があります。遺産分割協議を始める前に、こうした場所をしっかり確認することが重要です。
📑遺言書が複数ある場合はどうなる?
複数の遺言書が見つかることは珍しくありません。
相続の場面では、亡くなった方が生前に作成した遺言書が1通とは限らず、時期や状況によって複数の遺言書が残されていることがあります。例えば、以前に遺言書を作成したことを忘れて新たに作り直してしまう場合もあれば、きょうだいがそれぞれ自分に有利な内容の遺言書を作ってもらおうと親に働きかけ、親が断り切れずに応じてしまった結果、複数の遺言書が作成されることもあります。では、このように複数の遺言書が存在する場合、どの遺言書が有効となるのでしょうか。
複数の遺言書がある場合の有効性と優先順位
民法1023条には「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」と定められています。この規定により、複数の遺言が存在するときは、原則としてそれぞれ有効に扱われます。但し、両者の内容が矛盾する部分に限っては、古い遺言が無効となり、新しい遺言の内容が有効として扱われます。
具体例
・2015年の遺言:「自宅の不動産は長男に相続させる」
・2020年の遺言:「預金は次男に相続させる」
この場合、両方の遺言は矛盾していないため、自宅は長男、預金は次男にという形で、両方の遺言が有効になります。
一方で、2015年の遺言で「自宅は長男に」と書かれ、2020年の遺言で「自宅は次男に」と書かれていた場合は、後の遺言(2020年)が優先され、矛盾する部分について古い遺言は撤回されたものとみなされます。

⚠️無効となる遺言書とは?正しい遺言書を作るために知っておくべきポイント
遺言書が無効になることがある
遺言書が残されている場合、基本的にはその内容に沿って手続きを進めていきます。しかし、ここで注意が必要なのは、遺言書には**「法律で決められた厳しいルール」**があるということです。要件を少しでも欠いていると、法的には「無効」と扱われてしまいます。残念ながら、無効な遺言書では金融機関や登記の手続きを行うことができません。これでは、せっかく想いを込めて遺言を残しても、ご本人の意思が実現されない結果となってしまいます。
さらに、無効となった遺言書の存在自体が相続人の考え方に影響を与え、トラブルの火種となることもあります。例えば、遺言書が無効と判断されたにもかかわらず、その内容に従いたいと主張する相続人と、効力がない以上は遺言者の思いも尊重すべきでないと考える相続人との間で意見が対立し、かえって溝が深まってしまう場合もあります。
このように、要件を欠いた遺言書は、相続人同士の争いを招く原因となり得るのです。
無効となる遺言書の典型例
1. 日付、署名、押印がない自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が全文を自筆し、日付と署名を記載し、押印することが必要です。日付が抜けていたり署名がなかったりすると、遺言書としては無効になります。

2. 形式を満たさないもの
パソコンで作成した文書に署名捺印しただけのものや、録音や映像に残した「口頭での遺言」などは、法律では認められてないので、遺言としては無効です。法律で認められる方式(公正証書遺言、自筆証書遺言など)を守らなければなりません。

3. 不適切な訂正がある遺言書
自筆証書遺言の本文や目録に加除訂正を行う場合には、法律で定められた方式で行う必要があります。具体的には、訂正箇所を指示し、変更した旨を付記して署名し、さらに訂正箇所に押印しなければなりません。(民法968条3項)これらを欠いた訂正は効力を持たず、無効とされます。
無効となる例
・塗りつぶしや修正液で訂正している場合
・訂正の署名や押印がない場合

4. 内容が不明確な遺言書
内容が不明確な遺言書の例として、「長男にできるだけ多く財産を渡す」といった記載があります。
このように財産の範囲や配分があいまいな遺言は、法律上直ちに無効となるわけではありません。とはいえ、そのままでは具体的な手続きに進められず、実現が困難になります。
実際、金融機関や法務局などの手続きの場で「長男にできるだけ多く財産を渡す」と書かれた遺言書を提示しても、「遺産分割協議を行ってください」と求められることになるでしょう。

その他の無効となる遺言書の例
遺言が無効とされるケースはさまざまですが、次のような場合があります。
公序良俗に反する遺言(民法90条)
社会の秩序や善良の風俗に反する内容の遺言は無効となります。
15歳未満の者がした遺言(民法961条)
満15歳に達していない者が作成した遺言は無効です。
遺言能力を欠く遺言(民法963条)
重度の認知症などで意思能力が認められない状態で作成された遺言は無効です。
⚖️自筆証書遺言があった場合の手続きについて
自筆証書遺言は家庭裁判所で検認が必要
相続の場面で自筆証書遺言が見つかった場合、そのまま相続手続きに使えるわけではありません。まず家庭裁判所に提出し、「検認」という手続きを受ける必要があります。
遺言書の保管者(保管者がいない場合は遺言書を発見した相続人)は、被相続人の死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に遺言書を提出し、検認を請求しなければなりません(民法1004条)。
検認が完了すると、「検認済証明書」が付された遺言書が返されます。この遺言書をもとに、不動産の名義変更や預貯金の解約など、各種相続手続きを行うことができます。

法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用していた場合
遺言者が生前に法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用して遺言書を預けていた場合には、家庭裁判所での検認は不要です。相続開始後、相続人や受遺者は法務局に対して次の手続きを行うことができます。
・遺言の有無を確認する場合:「遺言書保管事実証明書」を請求する。
・遺言の内容を確認する場合:「遺言書情報証明書」の交付を請求する。
これらの手続きを通じて、遺言の存在や内容を確認することが可能です。
受遺者(じゅいしゃ)
遺言によって遺贈を受ける人のことを指します。法定相続人でない第三者でも指定することができ、遺言の内容に従って財産を取得します。
遺贈(いぞう)
遺言により、被相続人が自身の財産を相続人または第三者に無償で譲り渡すことを指します。

🏦自筆証書遺言書保管制度とは?
自筆証書遺言の弱点を補うための制度
自筆証書遺言は手軽に作成できる反面、発見されない、改ざんされる、紛失するなどのリスクがあります。これらを解消するために、法務局(遺言書保管所)が遺言書を預かる 「自筆証書遺言書保管制度」 が導入されました。
保管を申し込むときにできること
遺言者は法務局に遺言書の保管申請する際に、「死亡時通知」を設定することができます。
死亡時通知を設定している場合
遺言者が亡くなると、遺言書保管所から指定された通知対象者(最大3名まで)に「遺言書が保管されています」という通知が届きます。通知を受けた相続人等は、法務局に「遺言書情報証明書」を請求して遺言の内容を確認することが出来ます。
死亡時通知を設定していない場合
遺言者が亡くなっても遺言書保管所から通知は届きません。ただし、相続人等が法務局に「遺言書保管事実証明書」の交付請求を行うことで、遺言書が保管されているかどうかを確認できます。保管されていることが確認できた場合には、「遺言書情報証明書」を取得して内容を確認することになります。
遺言書情報証明書の活用と通知の流れ
相続人のうちの一人が「遺言書情報証明書」の交付を受けると、法務局からその他のすべての相続人等に対しても、「遺言書が保管されていること」が通知されます。この仕組みにより、特定の相続人だけが遺言書の存在を把握・独占してしまうことを防ぐことができます。
制度を利用するメリット
・「遺言書情報証明書」は不動産の登記や金融機関での相続手続きに利用できます。
・自筆証書遺言で通常必要な家庭裁判所の検認は不要 になります。
・改ざんや紛失のリスクがありません

ただし、家庭裁判所の検認手続きと同様に、これは遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。手続きを行う先で遺言が無効と判断された場合には、その手続きを進めることはできませんし、遺言の内容について争いがある場合には、別途、裁判などの手続きで判断されることになります。
- 遺言書が残されている場合、基本的にはその内容に沿って手続きを進めることになる。
- 保管場所は自宅・貸金庫・公証役場・法務局・専門家事務所などが考えられる。
- 複数の遺言書がある場合、原則すべて有効ですが、矛盾する部分については、新しい日付の遺言書が有効。
- 無効となる遺言書の典型例を知っておくことが大切です。
- 自筆証書遺言は検認が必要だが、保管制度を利用していれば検認は不要となる。
新井 秀之
行政書士/認定経営革新等支援機関/東京出入国在留管理局申請取次者/神奈川県行政書士会横浜中央支部相談員/コスモス成年後見サポートセンター相談委員

- 対応エリア:
- 神奈川県横浜市
- アクセス:
- 相鉄線 天王町駅 北口より徒歩10分
- 対応業務:
- 相続/遺言/遺言執行/成年後見/終活
1965年に横浜市神奈川区で生まれ、東芝、リクルートでの企業勤務を経て、行政書士として独立いたしました。以来、「人生の最終章を支える」という使命を胸に、相続、遺言、成年後見、そして死後の諸手続きといった業務を中心に、数多くのご相談と向き合ってまいりました。...続きを読む
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な手続きや判断については、必ず専門家にご相談ください。法改正や自治体の運用により情報が異なる場合がありますのでご注意ください。




















検認の目的
検認は、遺言書の形式や状態を確認し、偽造や変造を防ぐための手続きです。重要なのは、検認は遺言の有効・無効を判断するものではないという点です。