
相続手続きは、被相続人(亡くなった人)の財産の内容や家族構成によって進め方が大きく異なります。遺言書の有無、相続人が一人か複数か、借金があるかないかなど、状況によって必要な手続きや判断は変わり、同じ流れで進むわけではありません。つまり相続手続きは「一本道」ではなく、相続人の選択や環境によって分かれ道があるのです。
この記事では、相続手続きの全体像を整理し、「まず何を確認し、どのように進めればよいのか」をやさしく解説します。読み進めることで、ご自身のケースに必要な初動のポイントをイメージでき、相続をスムーズに進める第一歩につながるはずです。
- 相続手続きは、財産や家族構成によって流れが大きく異なる。
- 相続は死亡と同時に自動的に始まり、複数の相続人がいれば遺産は共有となる。
- まず全体像を把握し、必要な手続きや期限を整理することが大切。
- 財産の種類・規模、相続人の構成や関係性、遺言書の有無、相続税の申告の要否が手続きの難易度を左右する。
- 相続が難航しやすい要素には、外国が関係する場合・相続人同士の問題・遺産の性質がある。
- 相続は一つとして同じものはなく、個別事情に応じた柔軟な対応が必要。
- 相続フローチャートやチェックリストを活用することで、手続きを漏れなく整理できる。
📚相続とは?基本的な仕組みを理解しよう
相続とはすべての財産や権利・義務を引き継ぐこと
「相続」とは、人が亡くなったときに、その人が持っていた財産や権利・義務を、法律で定められた親族が引き継ぐ仕組みのことです。亡くなった人を「被相続人(亡くなった人)」、財産などを受け継ぐ人を「相続人」と呼びます。
ここでいう「人が亡くなったとき」には、自然な死亡だけでなく、行方不明が長く続いた場合に裁判所が死亡とみなす「失踪宣告」や、災害などで死亡が認められる「認定死亡」も含まれます。
また、「財産や権利・義務」には土地や建物、預貯金といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。相続人はプラスの財産だけを選んで引き継ぐことはできず、原則としてすべてをまとめて承継することになります。
さらに、「一定の親族」とは、誰が相続人になるかが民法で定められているという意味です。家族構成によって相続人となる範囲は変わります。

相続の開始と相続人の権利
相続は、人が亡くなったときに自動的に始まります(民法882条)。特別な申請や手続きをしなくても、財産や権利・義務はその死亡時点で相続人に引き継がれる仕組みです。
また、相続人が一人ではなく複数いる場合、引き継がれた財産はしばらくの間「相続人全員の共有」となります(民法898条)。つまり、相続人の誰かが単独で自由に使ったり処分したりできるわけではなく、全員が共同で管理していくことになります。

🔍相続手続きの流れを理解する第一歩:全体像をつかむ
「何から手をつけていいかわからない」と迷ったら、まずは落ち着いて遺産の全体像を把握することから始めましょう。
預貯金、不動産、有価証券、そして負債――。これらを書き出し、それぞれに必要な手続きと書類を整理していくと、驚くほど道筋がクリアになります。
多くの手続きには、共通する書類や類似したフローが存在します。全体図が見えてくれば、「次はこれをやればいい」という確信を持って進めることができます。焦らず、まずは机上の整理から一歩を踏み出してみましょう。
相続手続きで確認すべき要素と注意点
相続の手続きは、人によって状況がまったく異なります。そのため、まずは自分の相続にどのような「要素」が関わっているのかを整理することが大切です。
財産の種類や規模
たとえば、被相続人(亡くなった人)が残した財産の種類や規模は大きなポイントになります。不動産が多く、預金が少ない場合には分けにくさが生じ、売却して現金化しなければ分割できないこともあります。逆に借金が多ければ、相続放棄や限定承認を検討する必要が出てきます。
相続放棄(そうぞくほうき)
相続人が被相続人の財産(プラスもマイナスも)を一切受け継がない意思を表明し、家庭裁判所に申述する手続きです。相続開始を知った日から3か月以内に行う必要があります。
限定承認(げんていしょうにん)
相続人が相続によって得たプラスの財産の範囲内で、被相続人の債務や義務を引き継ぐ制度です。プラスの財産の範囲でマイナスの財産(借金など)を返済するため、過大な負債を背負うリスクを防げます。相続人全員で家庭裁判所へ申述する必要があります。
相続人の構成や人数、相続人同士の関係性
相続人が多ければ話し合いはまとまりにくくなり、海外在住者がいれば書類のやり取りに時間がかかります。また、相続人同士の関係性も重要です。仲が良ければ協議は円滑に進みますが、疎遠であったり過去にトラブルがあると、協議が長引く原因になります。相続人の中に認知症の方がいる場合は成年後見人の選任が必要になり、さらに複雑さが増します。
遺言書の有無と内容
公正証書遺言があれば比較的スムーズに進みますが、自筆証書遺言では形式不備や真偽の争いが起こることがあります。また、内容が遺留分を侵害している場合には、相続人から遺留分侵害額請求がされる可能性があります。
相続税申告の要否
相続税の課税対象となるかどうかも重要です。相続税の申告期限は10か月以内と短く、延滞すると無申告加算税や延滞税が課されます。財産の中に不動産が多く、すぐに現金化できない場合には納税資金をどう確保するかが大きな課題になります。
遺産分割協議の難易度
遺産分割協議そのものも、相続における大きな山場です。不動産を誰が相続するか、複数人で共有するのか、それとも売却して分けるのか。さらに、特定の相続人が介護を担っていた場合には「寄与分」、生前に贈与を受けていた場合には「特別受益」といった問題が持ち上がり、協議が難航しやすくなります。
期限管理
また、財産に借金が多い場合や、プラスとマイナスの財産がはっきりしない場合には、相続放棄や限定承認を選択する必要があります。これらは「相続開始を知ってから3か月以内」という厳しい期限があるため、早めの判断が求められます。
最後に、相続全体の進行状況や期限管理も見逃せません。優先順位を意識して進めましょう。特に相続放棄や相続税の申告は期限を過ぎてしまうと、その後の手続きが複雑化したり、挽回するために多大な労力と費用がかかったりする恐れがあります。
このように、相続にはさまざまな要素が絡み合い、「相続は一つとして同じものがない」と言われるのです。だからこそ、自分の相続にどんな要素が関わっているかを早めに把握し、どこに障害があるのかを意識しておくことが、スムーズに手続きを進めるための第一歩となります。

相続で、相続人が苦労する主な要素
相続は「十人十色」であり、状況によってスムーズに進むこともあれば、大きな障害に直面することもあります。特に、相続人が苦労しやすい要素にはいくつかのパターンがあります。ここでは代表的なものを整理してみましょう。
1. 外国が関係する場合
被相続人(亡くなった人)が外国籍であったり、外国に住んでいた場合、外国に財産がある場合など、相続手続きは一気に複雑になります。相続人の中に海外在住者も同様です。この場合、外国の法律に従った手続きが必要になることが多く、専門的な調査や翻訳、公証手続きが加わるため、相続人の負担は大きくなります。
2. 相続人に起因する場合
相続人同士の関係が悪いと、遺産分割協議は長引きがちです。相続人が多すぎる場合や、兄弟姉妹や甥姪が相続人となる数次相続のケースでは、話し合いに参加する人数が増え、合意形成が困難になります。さらに、相続人に認知症や未成年者がいる場合には成年後見人や特別代理人の選任が必要になり、手続きが煩雑化します。
3. 遺産の内容に起因する場合
遺産の内容そのものが相続を難しくするケースも多々あります。不動産が多くを占めると、現金化しない限り分けにくいことがあります。また、いわゆる「負動産(使い道がなく、売却も難しい不動産)」は相続人の大きな負担となります。
また、未上場株式や骨董品、農地といった評価が難しい資産は、専門家の鑑定が必要になることがあります。近年では、暗号資産やネット銀行口座といった「デジタル遺産」が問題となるケースも増えています。


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- 相続手続きは、財産や家族構成によって流れが大きく異なる。
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- 財産の種類・規模、相続人の構成や関係性、遺言書の有無、相続税の申告の要否が手続きの難易度を左右する。
- 相続が難航しやすい要素には、外国が関係する場合・相続人同士の問題・遺産の性質がある。
- 相続は一つとして同じものはなく、個別事情に応じた柔軟な対応が必要。
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新井 秀之
行政書士/認定経営革新等支援機関/東京出入国在留管理局申請取次者/神奈川県行政書士会横浜中央支部相談員/コスモス成年後見サポートセンター相談委員

- 対応エリア:
- 神奈川県横浜市
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- 相鉄線 天王町駅 北口より徒歩10分
- 対応業務:
- 相続/遺言/遺言執行/成年後見/終活
1965年に横浜市神奈川区で生まれ、東芝、リクルートでの企業勤務を経て、行政書士として独立いたしました。以来、「人生の最終章を支える」という使命を胸に、相続、遺言、成年後見、そして死後の諸手続きといった業務を中心に、数多くのご相談と向き合ってまいりました。...続きを読む
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な手続きや判断については、必ず専門家にご相談ください。法改正や自治体の運用により情報が異なる場合がありますのでご注意ください。





















相続が難航する背景には、相続人の関係性や遺産の性質、さらには外国の法律が絡むケースなど、さまざまな要素が関わっています。こうした事情は複雑に絡み合うため、「相続は一つとして同じものがない」と言われるのです。
だからこそ、早い段階で自分の相続に関わる要素を把握し、何が障害となり得るのかを見極めることが大切です。必要に応じて専門家に相談し、事前に準備を整えることが、相続を円滑に進める最大のポイントといえるでしょう。